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結果にとらわれない潔い態度を育む|ダン・ハリス「10% HAPPIER」

2017/06/06

カテゴリ: Makotoのオフィシャルブログ, ヨガを感じる本を読む, 言葉からのインスピレーション

「瞑想をしているということを白状すると、『それで人生はよくなるのか?』と質問されるんです。そんな時は、『今より10パーセント幸せになるよ。』と答えることにしています。」

ダン・ハリス ジャーナリスト

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ハタヨガという身体を使ったヨガがブームとなった次は瞑想が世界的なブームであり、欧米の大手企業では瞑想を全社的に取り入れ、社員が瞑想する為の部屋まで完備している企業もあるようです。美しくありたいと願う女性たちがハタヨガを行い、ライフスタイルに取り入れることが定着した今、仕事に情熱を燃やす男性たちの間で瞑想を行うことが浸透しつつあります。

瞑想とはそもそもなんでしょうか?
瞑想という言葉の意味を辞書で引いてみると以下のように説明がされていました。

【瞑想とは心を鎮めて無心になること、目を閉じて深く静かに思いをめぐらせること。】

なぜ目を閉じて無心になることが必要であり、世界中の人々がこぞってこの実践を行っているのでしょうか?

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ヨガという言葉が初めて登場する古代の文献である「ヨガスートラ」は、ヨガの根本的な経典であるといわれていますが、実は「ヨガスートラ」とは、瞑想の体験を成功させる為の手引書なのです。しかしこの古の文献での瞑想の定義は難しくて複雑のように思われます。そして、現代に書かれている瞑想についての本もまた難解であったり、胡散臭く思う人も多くいるかと思います。また精神世界の雰囲気がするものに拒絶反応がある方がいるのも事実ですね。瞑想についてもっとわかりやすく健全に伝えたいと思っている時に「10%HAPPIER」という本に出会いました。

今回ご紹介する本は、米国ABC放送の人気キャスターであるダン・ハリスさんが自分のエゴと向き合い、頭の中で絶え間なく続くおしゃべりを黙らせて、自分の精神に触れることで自己探究をしていくノンフィクションです。なので、この本は瞑想のやり方についての専門書ではありませんし、良くある精神世界を肯定することが大前提のスピリチュアル本でもなければ、聞き飽きたお説教のような自己啓発本とも異なります。

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ダンさんにはステイタスがありますが、あくまで普通の感覚の持ち主であることが文面からうかがえます。現実的で懐疑主義でもあることを自認されている彼が瞑想の実践を始め、仏教的なものごとの見方を身につけることで、【慈悲の心を持ちながら社会的に成功をおさめるということは両立するのか?】というテーマに真っ向から突き進みます。最終的にはABC放送の看板番組のメインキャスターに昇り詰めるまでの奮闘ぶりが、ユーモアをふくめながらジャーナリストらしい鋭いまなざしで語られています。

ダンさんは戦場での取材の経験や、淘汰の激しい業界において、ライバルとの競争によるストレスからドラッグに手を染めてしまうのですが、自分の社会的立場の責任感やドラッグがきれた時のパニック障害の経験を更生しようと精神科医の元にカウンセリングに通っていました。

ドラッグの影響から立ち直ろうとする中で、ダンさんは仕事で宗教関連の報道を手掛け、何名かの著名な宗教家へのインタビューを行います。その後現代のスピリチュアルリーダーであるエックハルト・トール氏の著作「ニューアース」を読むことで、最初は毛嫌いし、小馬鹿にしていたはずの精神的な世界への扉を開いていくのです。トール氏の著作の抽象的な表現にうんざりしながらも、ダンさんの心を撃沈する以下のような一節を発見するのです。

「トールによると、人間は生まれてから死ぬまでずっと自分の頭の中の声に支配されている。その声は、ひっきりなしに何かを考えている。ほとんどはネガティブな思考であり、同じことの繰り返しで、そして自分のことだ。」

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上記の文章がまさしく彼の頭の中の出来事そのものであり、その声の主、つまりエゴの存在をはっきりと認識したのです。エゴによって過ぎ去った出来事に執着し、起きてもいない未来の不安や期待に思いをはせてしまうことで、今現在がないがしろになってしまっていることに気がつきます。一見したところ成功しているような自分の人生が、実は夢遊病にように何も考えず、ただ惰性で過ごしてきことを痛感したのです。

元来心配性でネガティブな心の傾向があるダンさんは、最小限のストレスで自身の心的能力を向上できる方法を知りたい、そしてエゴが行う頭の中のおしゃべりをだまらせる方法を知りたいと思うのですが、生憎トール氏のどの著作を読んでも答えは見つからず、自らその答えを見つけるべく瞑想の実践へと導かれていきます。

ヨガの世界観では、頭の中で繰り広げられるおしゃべりの主であるエゴ(自我意識)を本当の自分ではないとはっきり断言しています。頭の中で繰り広げられる思考は常に勝手に動き回ってしまい、僕たちをあらぬ方向へ、自分が望まない方向へと押し出します。ヨガスートラの冒頭にはこの様な苦しみの原因の一端が以下のようにあらわされています。

「思考が動き回ってしまうことに配慮をしないと、本当の自分と思考とを混同してしまうことが苦悩の原因となるでしょう。」
ヨガスートラ1章4節

では「動き回っては次々と浮かんでくる思考に対して、どの様な配慮を持つことが出来るのか?」をこの本でダンさんが追及してくれています。

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その後、トール氏をはじめ、精神世界のリーダたちを取材しましたが自分が求めるような回答が得られずに悶々としていました。そこで、まずは自ら瞑想の実践を深め、仏教の教えを学びました。仏教の教えは現実的な彼の性質と上手く溶け合い、瞑想の実践の成果もあり、彼の知性が徐々に輝きだします。懐疑心ではなく、本質を見極める力が備わってくる様子がうかがえます。

瞑想を続けながらも、ダンさんは自分の昇格に右往左往していたのですが、瞑想や仏教的な考え方を身につけているが故、上司からは能力があるのに意欲に欠け、消極的な人とみられてしまっていました。仕事上重要なポジションにほとんど立たせてもらえないことも、調和という能力を身につけているが故、あまり気にならないでいました。しかし、大きな事件やプロジェクトが立て続く中、自分がその渦中にいないことを疑問に思い、自分の上司に面談を申し入れたのです。

面談の結果、自分がふぬけになっていたことに改めて気がつきます。瞑想の実践で頭の声に振りまわされることがなくなり、以前よりは生きやすくなってはいたものの社会的に見たら機能しない消極さが身についていたのです。

そこで彼は、【幸せで善良な人になりながら、世俗的な成功も達するにはどうすればいいのか】という問題に真剣に取り組むことになります。野心と平常心のバランスを模索しているなか、友人でもあり仏教の学びの師でもあるマークさんに諭された一言は彼が求めていた答えでした。それは「結果に執着しない」ということ。自分自身がコントロールできることのみに集中し、自分にはコントロールできないことは見極めて手放す。この知恵こそが彼が知りたかったことであり、この物語のマスターピースなのでした。

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その後のエピソードで、ダンさんがABC放送の看板ニュース番組のメインキャスターに抜擢され、昇進した様子が伝えられています。彼が知った「結果に執着しない」という知恵は、ヨガスートラで述べられている瞑想の効果を引き出す為に必要な事の一つとして上げられています。ヨガスートラでは「結果に執着しない」ということを以下のように表現しています。

「自然の法則を理解しその流れに身を任せることによって瞑想の効果が深まります。」
ヨガスートラ2章45節

目標や目的に対して自分が出来ることを全て行ったとしても、その結果は自然や宇宙、神にゆだねるという潔い態度がダンさんの成功体験の秘訣だったようです。

そしてこの潔い態度はヨガや瞑想の実践を通じて育み、身につけることが可能です。

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ダン・ハリス「10%HAPPIER」2015年大和書房

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